読書感想文


壊れた車輪 チョンクオ風雲録 その五
デイヴィッド・ウィングローヴ著
野村芳夫訳
文春文庫
1994年5月10日第1刷
定価631円

 「一寸の灰」に続く大河長編の第5巻。
 李ユアンの妻、飛燕が懐妊。しかし、その父親は西アジアのタン、祖マー。ユアンは飛燕を離縁する。反逆者ディヴォアは〈平調〉のメンバーの中から役に立ちそうな者だけを残してそれ以外の者を始末する。また、ディヴォアは〈ワイアリング・プロジェクト〉の施設を破壊し天才少年キム・ワードを手中に収めようとするが、自力で逃れたキムは碁聖の隠遁者トアン・ティーファーに保護される。トアンとの交流で本来の自分に戻ったキムは、彼を発見したカーの手でユアンのもとに導かれ、北米で企業のオーナーとして力を発揮する場を与えられることになる。
 ディヴォアは巧妙な方法で欧州のタン、李シャイトンの暗殺に成功。ユアンが新たにタンに就任する。タンとして絶対的な権力を行使しはじめるユアン。しかし、ディヴォアが性病のウィルスをユアンの腹心ハンス・エバートに託したことを知らない。
 ユアンとキムのつながりが深くなっていく様子など、新しい世代が中心となって時代が動き始めた。おそらくキムがディヴォアの強敵になるのではないかという印象を与える場面も見られる。しかし、流れはまだまだディヴォアのもの。どのような失敗もディヴォアはプラスに転じてしまう。この弱みのなさは読んでいて息がつまりそうになる。ディヴォアの人間味のなさはただごとではない。アキレス腱を作っておいてくれればよりスリリングに読めるのに。
 もっともまだまだ先は長い。ディヴォアが年をとりユアンたちが大人になったときにどのように変化しているのか、そこがみものになるのだろう。

(1999年3月31日読了)


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