読書感想文


白い山 チョンクオ風雲録 その六
デイヴィッド・ウィングローヴ著
野村芳夫訳
文春文庫
1994年8月10日第1刷
定価825円

 「壊れた車輪」に続く大河長編の第6巻。
 本巻から200円ほど値上がりしている。発行部数をかなり減らしたのかもしれない。
 本書では〈シティ〉上層部の腐敗をこれでもかこれでもかと描く。反逆者ディヴォアが撒き散らした梅毒が乱交にふける〈名家〉の人々に蔓延、欧州のタン、李ユアンは感染したものを全員処刑することにより危機を防ごうとする。そして、自らが将軍に指名し片腕とも思っていたハンス・エバートがディヴォアと協力関係にあったことが判明し、ハンスは火星に逃亡する。
 一方、腐敗した官僚や〈名家〉の者のみをターゲットにする新たなテロリストたちが登場し、諜報・暗殺担当のカーやチェンはテロリストたちに共感しながらも彼らを体制に反逆する者として殺さなければならない矛盾に悩む。
 この間で鮮烈な印象を与えるのはテロリストの一人、ユエ・ハオ。彼女は〈下層〉出身で貧困の中で育ち、腕利きのテロリストとして暗躍するが、カーたちに捕まり〈ワイヤリング・プロジェクト〉の実験体としてロボトミーを受け殺されてしまう。本巻のみの登場人物であるが、チョンクオの抱える問題をえぐり出す存在として重要な役割を果たしている。
 現実と理想の矛盾に揺れ動くユアン、カー、チェンたちの心情を描くことにより、キャラクターに深みが増している。

(1999年4月8日読了)


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