「深海の怪物」に続く大河長編の第8巻。
本書でこの大河長編も折り返し点。いよいよチョンクオ崩壊にむけて事態が進行してきて面白くなってきた。
本書の前半は、芸術家ベン・シェパードが自分の特別居住地に侵入してきたものをゲームでもするように撃退する様子が描かれる。彼の作るヴァーチャル・リアリティの素材として殺戮のシーンを撮影していく様は、芸術にとりつかれた男の狂気をクローズアップしていく。
後半では欧州のタン李ユアンとアフリカのタン王サウリアンの暗闘が軸となる。家族への愛に目覚めたユアンは、別荘である宇宙ステーションで安息の日々を過ごすが、サウリアンはそこを狙い刺客を送り込む。急用で地球に戻っていたユアンは難を逃れるが、3人の妻は死に王子コアイレンのみ秘書ツォンリーの機転で救われる。
北米ではマイケル・リーヴァーが何者かに爆殺されかけ、九死に一生を得る。これが好材料となり、ジョーゼフ・ケネディ率いる〈新共和進化党〉が選挙で議席をのばす。マイケルの妻エメリーはかつての〈平調〉での同志ヤーン・マッハと再会するが、その結果自分の進むべき道を再確認し自立した女性として進む決意をする。老リーヴァーの死により大企業イムヴァク社はマイケルが相続、北米は新たな局面を迎えた。
今回の見どころはやはりユアンとサウリアンの暗闘が〈七帝〉の権力を低下させるもとになっていく過程や北米で一気に変革が進んでいく様子などだろう。展開としてはじっくりと一歩ずつ進んではいっているのだが、折り返し点にきて、変化のスピードが早まってきたという感じだ。時代が動く時というのはそういうものなのだ。
今後、家族愛に目覚めたところなのにその家族を奪われたユアンの変貌などに注目したい。
ところで、ここまで読んできて気になったのが、登場人物が嘆息するときに必ず「観音(クワンイン)よ!」ということ。これはニュアンスとしては英語の「Oh!
My God.」とか「Good
Heaven!」などというものと同じなのだが、中国文化にはそういう言葉の使い方ってあるのかな。日本だと「なまんだぶなまんだぶ」と念仏を唱えるようなものか。ちょっと違うなあ。そこらへんが英国人作家の手になるものだと思わせるね。なんか違和感がある。
(1999年4月10日読了)