「神樹の下で」に続く大河長編の第11巻。
李ユアンが新たに皇后に選んだ年上の妻、ペイ・コンは若きタンの補佐役として期待されていることはわかっていたが、女性であることに目覚め、ユアンの妻であった飛燕に嫉妬をする。若い男を引き込み情事にふけるペイ・コン。飛燕はペイ・コンと対面する。一方、西アジアのタン、祖マーはいよいよ皇后をめとる。婚約式に現れた飛燕の口から、彼女が祖マーと密通していたことがユアンに知れる。マーと絶交するユアン。また、マーの結婚のためにタンの地位の継承が難しくなった甥の祖コンチーはマーを殺害、しかしそのコンチーも異母弟タオチューの手にかかり死亡。魏ツォンリーも死に、〈七帝〉はユアン一人となってしまう。
天才キム・ワードは新たな人造人間の開発を進めているが、エルカ・トローネンの成人を待って結婚することを決意。いよいよ成人式という日、エルカの父、ナット・トローネンによって監禁されかける。キムの出自から娘との結婚に反対しているトローネン元帥はなんとか二人を会わせないように保安軍さえ出動させた。しかしエルカは父の目をかすめてキムと会い、変わらぬ愛情を確認し、父のもとを去る。
〈下層〉に君臨し、〈白きタン〉とまで呼ばれるようになったシュテファン・レーマンはとうとう〈上階〉との戦争を開始、あわやというところまでユアンを追いつめるが、ユアンの捨て身の作戦によって戦線は膠着。しかし、その勢力は大いに拡大され、ユアンの権力はわずかに地域に限定されるところまで追い込まれた。
そんな中で、火星から地球に向かう人物が二人いた。一人は、世界を一度壊滅させようとする反逆者ディヴォア。もう一人は〈マシン〉というコンピュータ・システムにより人間性をとりもどしたハンス・エバート。チョンクオ体制が崩壊し、新たな世界を作る動きが始まりつつある。
揺れ動くユアンの若さと老獪なシュテファンの対比に注目してみる。計算づくで戦争に勝利していくシュテファンに対抗できるのは、ユアンの若さ故の大胆さである。自分の娘を縛りつけようとして失敗するトローネンの様子は、古い秩序が崩れ去っていく状況を象徴するものとして描かれる。果たして、この最終戦争のあとにくるものは、計算された世界か、若さの可能性を秘めた世界か。混沌とした状況ではあるが、若さの可能性とというものに軍配が上がるのではないかという予感を抱かせる展開である。
(1999年4月18日読了)