読書感想文


白い月、赤い龍 チョンクオ風雲録 その十二
デイヴィッド・ウィングローヴ著
野村芳夫訳
文春文庫
1997年5月10日第1刷
定価876円

 「金銅仙人の歌」に続く大河長編の第12巻。
 いよいよ崩壊の道を行くチョンクオの支配体制であるが、本巻で大規模な戦争が起こり、〈シティ〉が解体される。
 主役は久々に反逆者ディヴォア。地球に帰ってきた彼はまず〈土層〉の族長をてなづけてそこを基盤に〈シティ〉への攻撃をかけようとする。しかし、芸術家ベン・シェパードたちが〈土層〉に入っていったことなどから、彼が地球に帰ってきたことがわかり、作戦を変更。複製人間(帯には「クローン人間」とあるが、よりアンドロイドに近い)を多数〈シティ〉に紛れ込ませておき、それらを突如発狂したように暴れ始めさせる。これにより、〈シティ〉は混乱する。極めつけは自分の複製人間を10万人も宇宙船に乗せて地球に送り込み、地中海の海水を蒸発させてヨーロッパ上陸を試みる。
 交戦状態にあった李ユアンと〈白いタン〉シュテファン・レーマンは一時的に同盟を結び、ディヴォアに対抗する。しかし、劣勢は免れ得ない。火星で黒人たちとともに暮らし人間的な成長を遂げたハンス・エバート。彼は8人の黒人たちと人工知性〈マシン〉とともにディヴォアを攻め、撤退させる。危機が去った時、レーマンはユアンと雌雄を決そうとするが、カー将軍が間一髪でユアンを救う。ユアンはカーに〈シティ〉の解体と新しい体制づくりを約束し、長く続いた〈七帝〉によるチョンクオ支配が終わりを告げる。
 全体の位置づけからいえば、非常に大きな山場となった本書であるが、キムとベンの子どもが遠隔地からテレパシーで心を通じ合わせる場面など、新時代への鍵もところどころに挿入していて、次巻以降にどのような世界を描き出すのかが興味のもたれるところ。なんといっても圧巻は10万人のディヴォア。1人だけでも脅威的な存在だというのに、複製とはいえそんなにディヴォアがうじゃうじゃいるというのはたまったものではない。というか、ディヴォアの作ろうとしている新しい世界は、全てが破壊されて自分だけが存在するという世界であるということを象徴的に描いているように感じられる。また、自分以外は誰一人信じないというディヴォアの心象を端的に示してもいる。このような単なる冷酷な悪役にとどまらぬディヴォアという特異な人物像の描き方に凄みを感じた。

(1999年4月22日読了)


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