「白い月、赤い龍」に続く大河長編の第13巻。
〈シティ〉が崩壊してから10年という歳月が流れ、李ユアンはライン河畔に新しい町を作り、ヨーロッパはしばしの間、平和に暮らしていた。しかし、皇后ペイ・コンはユアンに政治を任せられているうちに権勢を振るい、政治は腐敗していく。皇后は突如課税を布告し、西アジアに勢力を持つ軍閥に戦争を仕掛け、〈シティ〉崩壊以前のような絶対的な支配をもくろんだ。皇后の側近たちによる恐怖政治が行われ、市井で慎ましく暮らしていたエミリーなども側近の息のかかったごろつきに襲われ、平和な暮らしを断念せざるを得なくなる。
一方、ユアンは政治顧問のベン・シェパードの計画を受け、皇后を失脚させる手を打つ。皇后の仕掛けた戦争を敗北させ、その間に皇太子コアイレンにタンの地位を譲り、皇后から実権を奪うのだ。
天才科学者キム・ワードとベン・シェパードの子どもたちはこれまでテレパシーでのみ通じ合っていたが、ここで初めて出会い、二人で売春宿に行き、ベンの作った仮想現実を体感させる〈シェル〉でおぞましい体験をする。
新たに登場するのは、生まれながらにして残忍な性質を持つ少年ジョーゼフ・ホラチェクと、生まれてすぐに火葬人に引き取られる利発な少女チョアン・コアンツァイ。老いてきた中心人物に加わるこういった若い世代が今後どのように物語を動かしていくのかというのも注目されるところ。
本巻よりいよいよ最終局面。崩壊前の支配体制を引きずりながら、新たな世界秩序ができあがる助走といった位置づけにあたる。ユアンは求心力を失い、キムやベンは全く違う方向を向いていて読者にいろいろな可能性を提示している。また、登場人物たちがすっかり年を取ってしまっているが、その年の取り方をそれぞれ対照的に描き、時代の変化を印象づけている。そこらあたりが大河長編の醍醐味であり、そこをうまく描けるかどうかが作家の力量を示すところだろう。
(1999年4月25日読了)