読書感想文


苦力の時代 チョンクオ風雲録 その十四
デイヴィッド・ウィングローヴ著
野村芳夫訳
文春文庫
1998年1月10日第1刷
定価876円

 「ライン河畔のチャイナ」に続く大河長編の第14巻。
 本巻で、天才科学者キム・ワードと芸術家ベン・シェパードが本格的に対立し、光を求めるキムと闇を探るベンの違いが鮮明になる。今後のチョンクオがどのような方向に進むかの鍵を握る対立となるか。
 皇后ペイ・コンは自分に逆らうベンを排除しようと側近イー・イエに暗殺を命じる。しかし、刺客はキムと李ユアンによって阻まれ、イー・イエは逮捕される。この結果、皇后は窮地に陥る。
 軍閥フー・ワンチーと同盟を結びに行ったカー元帥の目の前でフーは暗殺され、その後継者によって同盟は廃棄される。その後継者とは、フーの養子にして李ユアンの実子であるハンチンであった。
 李ユアンはペイ・コンを離縁し新たに龍心(ロンシン)という若い娘を皇后に迎える。龍心は皇太子コアイレンの婚約者の妹だった。そのためコアイレンはアメリカに去り同性愛の恋人のもとで性転換手術を受け、その妻となってしまう。また、ベンはユアンを見捨てて特別居住地に帰還、キムもまたかねてから計画していた外惑星への移住を実行しはじめる。
 ペイ・コンは側近の手により暗殺されユアンは権力を取り戻したかに見えたが龍心のわがままに振り回されるだけの存在になり果てる。追い打ちをかけるように奇病〈空洞病〉がチョンクオ全土に流行し、人口の90%が失われてしまう。ユアンも〈空洞病〉にかかるが九死に一生を得、ハンチンやコアイレンらに助けられアメリカに移る。空白となったヨーロッパの新たな支配者は、10年ぶりに地球に帰還した反逆者ディヴォアであった。
 〈空洞病〉で娘を失ったキムは傷心のまま外惑星への旅に出発する。
 助走であった前巻から本巻は一気にジャンプ。全ての状況が大きく変化してしまう。少しずつ明らかになるディヴォアの秘密も含め、この大長編は人類という種のあり方を問いかけてきている。前巻で登場したチョアン・コアンツァイが人工知能〈マシン〉と同化してキムと行動をともにしたり、ジョーゼフ・ホラチェクがますますその残忍さに磨きをかけたりしていく過程も見逃せない。はたしてあと2冊でどのような着地を見せるのか。ひたすら読むだけである。

(1999年4月25日読了)


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