「苦力の時代」に続く大河長編の第15巻。
反逆者ディヴォアがヨーロッパを支配するようになり、彼はそこで新たな人工生物を撒き散らし、孤児を集めてキャンプに収容し、彼らの中から自分の部下として使える少年を選別したりしている。残忍なジョーゼフ・ホラチェクがディヴォアの片腕となっていて、部下に対して冷酷な支配をしている。キャンプの少年たちは頭に〈回路〉を埋め込まれている。
少年たちの中で突出した力を持つダニエルは、ディヴォアに見込まれているのだが、敵味方なく死者に対して涙を流す反乱軍のリーダー、エミリー・アッシャーの姿を見て自分の生き方に疑問を持ち、自ら頭に埋め込まれた〈回路〉をはずして反乱軍に合流する。そんなダニエルを暖かくエミリーは迎え入れる。
アメリカでは李コアイレンの夫マーク・イーガンが国王となって統治し、漢人を排斥する政策を採っている。しかし、西海岸の独立勢力との戦争に敗れ、また祖父ヨシア・イーガンの人格を若い肉体に移植してマークに取って代わろうとする内部の勢力もあり、その地位を守るのに汲々としている。コアイレンのアドバイスを受けたイーガンは李ユアンとハンチンをアドバイザーとして受け入れ建て直しを図ろうとするが、ユアンは何者かに誘拐されてしまった。
ユアンをさらったのは碁聖トアン・ティーファーの指導する教団。トアンはユアンを目覚めさせ真の皇帝として復活させる。
物語は最終局面を迎え、ディヴォアに対するエミリーやユアンたちの態勢を整えていく方向に進んでいる。また、ディヴォアに育てられエミリーを慕うようになるダニエル少年の存在は、青春小説としての側面をこの物語が持っていたことを思い出させる。神出鬼没の碁聖トアンとディヴォアの関係も少しずつ明らかにされていくが、ここにきて実はこの物語がトアンとディヴォアの対立の物語であるということが見えてきた。本巻は結末に向けて力を蓄えているという感じの展開であるので、最終巻となる次巻で一気に決着がつくのだろう。特に本巻に登場しなかった、キム・ワードたちの動向が気になるところだ。
(1999年4月29日読了)