デビュー作「修羅の跫(あしおと)」から1年。待望の第2作が登場。
今回も舞台は平安時代だが、前作からさらにさかのぼって中期の藤原道長の時代に。
関白藤原道隆が都中に流行る疫病で倒れる。次の関白の座をめぐる政権争いが起こる一方で、どんな病も治すという秘薬を作る来流須の村とその民に関わる武士や盗賊たちの戦いも起こる。
そこにからんでくるのが陰陽師たち。不死の存在である安倍晴明とそれに対抗する蘆屋道鬼の呪術合戦が本書のクライマックス。そのほか、来流須の村を探す海賊のエピソードや骸骨になって生き延びていた徐福の暗躍など伝奇小説ではおなじみの顔ぶれが続々登場する。
デビュー作でも多彩な登場人物を数多く出し、それをからめながら一つの話を作り上げていたが、本作もその作りは変わらない。ただ、前作は一冊で物語が完結していたので物語が一つの大きな軸に収斂していく感じではあったが、本作はシリーズ第1巻ということもあり、なんとなく散漫なままという感じを受ける。
また、陰陽師たちの呪術合戦の盛り上がりはなかなか楽しめるのだが、ちょっと残念なのはその呪術や秘薬の理屈の部分がすぽんと抜け落ちていることだ。伝奇小説というのはあり得ざる出来事が描かれていればそれでいいというものではなく、そのあり得ざる部分にいかにリアリティを持たせるかというところが勝負ではないか。ただ陰陽師だから不思議な力が使えるというのでは、力持ちの力比べとたいして変わりがない。人の脳味噌を食らったらその人格を手に入れられるのなら、なぜそうなるのかもう少しそれらしく書いてほしい、ということ。
次巻以降の課題はやはりそのリアリティ。ただただたくさんの人物が入り乱れてるだけではスケールの大きな物語にはならない。そういう点がどこまで改善されているか、だろう。
あと気になったのは、藤原道長が一度関白に任ぜられながら病で辞職したというくだり。史実では道長は関白にはならなかったと記憶しているのだが、そういう史料が残っているのか。伝奇小説のリアリティというのは、史実をいかに曲げずにほらを吹くかというところだと思うので、その点、ここはとても気になる。
(1999年5月22日読了)