読書感想文


悲しみのアクアブレード 海魔の紋章3
夏見正隆著
朝日ソノラマ文庫
1999年3月31日第1刷
定価550円

 「レヴァイアサンの少女」に続くシリーズ第3巻。
 〈人形つかい〉が放送局を占拠。瞬は携帯電話でニュースキャスター高見沢麗からの救援を求めるメッセージを聞き、単身放送局に乗り込む。それが〈人形つかい〉のしかけた罠とも知らずに……。
 傭兵クリスも加わり、〈人形つかい〉の罠から脱出した瞬だが、彼の目の前で麗は八つ裂きにされてしまう。愛するものを守らねばという自覚を持った瞬は、愛する女性、緑川忍を自宅にかくまう。自宅で父親の残したメッセージを見つけた瞬は〈宿主〉を倒すためのキーワードを探す。そこを狙って現れた〈人形つかい〉の前に、瞬は絶体絶命の危機に陥る。その時、彼の体に閉じこめられた〈海魔〉の力が放出され……。
 少年の成長していく様を痛いくらいに掘り下げていくこのシリーズであるが、愛に飢えていた瞬が愛するということの意味を知り(本巻では童貞喪失のシーンもある)、他人の前で構えてしまうことの虚しさを理解していく。脆さ、優しさなどを残したまま、戦うことによって大人になることの痛みをこれでもかこれでもかとちくちく刺すように描いていくのだが、その危うさの描写など、読ませるのだ。
 前巻で3巻完結の予告をしていたが、結局収まりきれず、完結は次巻に持ち越し。これだけていねいに少年の心を描いているのだから、やむを得まい。

(1999年5月27日読了)


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