読書感想文


追儺幻抄
封殺鬼 19
霜島ケイ著
小学館キャンバス文庫
1999年6月10日第1刷
定価514円

 前巻「まほろばの守人」から続くストーリーがとうとう完結。
 信州、鬼無里(きなさ)に現れた鬼女の処遇に関わり、里を守る柵一族、「本家」そして「中央」の虚々実々の駆け引きが見どころ。その中で自分の思いを貫いていく佐穂子の姿、蘇った土地を守る女神、紅葉の慈愛など、戦いのシーンの多い作品でありながら殺伐とした雰囲気は、ない。それが救いになっているといえる。切れば血の出るような人物造形は相変わらず冴えている。
 「中央」の使者として初登場した高良司は茫洋としていながら実は切れ者というありがちなキャラクターながら不自然さを感じさせないのはやはりその人物造形の確かさからくるものだろう。なかなか味のある人物で、今後の展開の鍵を握りそうだ。
 今回、とうとう「中央」=「宮内庁(?)」の存在が物語の中ではっきりと現れた。加えて、羅候(らごう)に対する力をもった謎の人物がちらりと登場する。物語が佳境に入ってきたといえるだろう。
 鬼無里(きなさ)の紅葉伝説を現代に蘇らせた作者は、次巻以降、どのようなしかけを用意してくれるのか。楽しみでならない。

(1999年5月28日読了)


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