言語化できない世界を嗅覚で読みとる男が企てた、この世界の支配。フリーライターの八辻由紀子は雑誌の取材でコンタクティたちに出会い、そこから偏執狂的な出来事に巻き込まれていく。彼女をつけねらう怪しげな人々、そして関わりのある人々の死。彼女は世界支配をもくろむ男にとって重要な存在らしいが、いったいそれはなぜか……。
「嗅覚」による世界の把握というアイデアを軸にしているのかと思えば、それよりも「電波系」コンタクティたちの常軌を逸した行動に焦点が合わせられているように感じられた。むろん、それはそれで十分不気味ではある。特に電波な人たちの言動や文章などの異常性はリアリティに富み、こんなのにつきまとわれたらさぞかし気持ち悪いことだろうと思う。こういう気味の悪さは作者の真骨頂か。
ただ、私としては、コンタクティに焦点があうにつれ、嗅覚へのこだわりが薄まっていくのが気になった。なにかテーマが途中で入れ替わってしまった感じがする。どちらかに絞ってしつこくしつこくやっていけばと思わずにはいられない。「屍の王」に比べると少し散漫な印象を受けるのもそのせいではないだろうか。
(1999年6月11日読了)