「魔界都市ブルース6(童夢の章)」から約半年ぶりのシリーズ最新刊。本巻からメインタイトルについていた通しナンバーが消えている。おそらく文庫化されたものにつけていないので、そちらとの統一を図ったものと思われるが、文庫と新書はまた別なのだから、新書は新書でこれまで通りに統一して置いてほしいところ。
本書は短編を6本収録。1編を除き、叙情的なイメージの作品でまとめられている。
その1編、「踊る外谷さん」は、情報屋の外谷女史で思い切り遊んだ怪作であるが、遊びの部分が悪ふざけの域を出ていないように感じられるのが残念。芯になるアイデアは悪くないのだが、そこに外谷さんを使った遊びを組み込むところに無理が生じていると思った。
その他のものに簡単に触れると、「花影」は、死者が生者への思いを残して花となって魔界都市に生まれ変わってくるというイメージが美しい。「森の彼方の国」では、トランシルヴァニアの少女が虚空に見いだす故郷の風景、その故郷に拘泥する者たちの哀愁がしみじみと伝わってくる。「別れ雲」では、〈幽霊〉をいかにも魔界都市にふさわしい形で処理している。「寂しい劇場」に出てくる女優志望の美しい女性は、手塚治虫のマンガに出てきそうな感じだ。集中で私が特に好きなのは「迷い雨」。現実と非現実の重なり合うところに生まれた恋の物語だが、その重なり具合が絶妙。
この短編シリーズでは、秋せつらは脇役にまわり、それぞれのエピソードの引き立て役となる。したがって、1冊ごとに雰囲気を変えて短編集を作っているという意図がはっきりと感じられる。作者の叙情的な一面を強調した本書では、魔界都市の影にひっそりとたたずむ弱者たちへの暖かいまなざしが感じられる。短編シリーズではここのところその傾向が強いが、それはこのシリーズが曲がり角を迎えているということなのだろうか。
(1999年7月22日読了)