「ペリペティアの福音 中 聖誕編」の続刊にして完結編。
ファンランがゲルプクロイツ社と組んだため、トランクィル廃帝政体は、〈連邦〉が彼らの政体を支配下におく危機を察知する。あらゆる束縛を嫌う彼らは征服される前に奇襲攻撃をかけることを決定。本書はこのトランクィルの星海艦隊の作戦行動を中心とした展開となる。
この奇襲と同時に、キャルの決死の突撃でゲルプクロイツ社の計画が狂いはじめるのだ。キャルの攻撃目標は三博士の老化を防止するために培養されているクローン。博士たちを老化させることにより〈生命樹〉計画を阻止できるということになる。
かくしてファンランをめぐる戦闘があちこちでくりひろげられる。果たしてティックたちはゲルプクロイツ社と〈連邦〉の人間や生命の尊厳を無視した野望をくい止めることができるのか。
本作の鍵は、惑星ペリペティアを覆う輝砂。逆エントロピーの作用をもち全てのものを原子レベルに分解、そして再生させるこの物質……このアイデアこそSFの醍醐味。ホラというなら、これほどでっかくばかばかしい大ボラもなかろう。そしてもう一つの鍵は、作品を貫く人道主義である。世界人権宣言や日本国憲法前文からひかれた祈りの言葉に作者のメッセージが込められているといっていいだろう。本シリーズは大いなる癒しの物語であり、ユートピアを具現化するという大胆な試みでもある。
本書ではトランクィルの作戦行動がかなりの分量を占めるため、三巻通して読むと多少バランスは悪いかなとは思うが、実はこの作品を序章として壮大な宇宙史が今後も展開される予定だという。そういう点で、作者の次作への伏線もはられているようだ。これからの展開が実に楽しみである。
(1999年8月16日読了)