読書感想文


時空道中膝栗毛 後の巻 時也空地球之道行
小松左京著
ケイブンシャ文庫
1999年7月15日第1刷
定価571円

 「時空道中膝栗毛 前の巻」の続編。といっても、前作より10年後に連載を再開し完結させたもの。これもかつては文春文庫から出ていたものの復刊である。
 牙次、与太、サンザ、タヅメに加え、作者自身とテレビカメラマンが道中に加わる。キプチャク汗国や紀元前の北米と一般にはあまり知られていない国の歴史をたどる。語り手として作者自身が登場したことにより、本書はますます歴史探究という側面が強くなり、珍道中という感じがしなくなる。
 もちろん、当時の最新の研究を採り入れ、ペダンティックなものに陥らず、読みやすく面白い小説に仕上げているところは、作者ならではである。また、旅の途中に人間が繰り返してきた殺戮の歴史をたどるシーンを挿入したりと、メッセージ性も強い。
 本書こそはまさに「教科書が教えない歴史」であり、そのグローバルな視点はSF作家ならではのものだろう。
 それだけに、作者が語り手としてでてきてしまうと前作のもっていた「膝栗毛」の本歌取りという面白さがなくなってしまったのが惜しまれる。もっとも、かつての文庫では「時也空地球之道行」の方がメインタイトルであったから、作者の意図は歴史の「膝栗毛」的展開というところにはなかったのではないかとは思われるが。

(1999年9月5日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る