読書感想文


電脳ルシファー
ウイルスハンター・ケイ
北野安騎夫著
廣済堂出版 ブルー・ブックス
1996年10月10日第1刷
定価825円

 「ウイルスハンター」の、続編。版元を変えてシリーズ第1巻とはしているが、実質上は第2巻である。なお、本巻より1冊読み切りの長編シリーズとなる。
 ヴァーチャル・リアリティ・ゲームが流行するが、このプログラムに知性らしいもののあるウイルスが侵入。衝動殺人を引き起こすような刺激を人間の脳に与えるプログラムを作り上げていた。〈ウイルスハンター〉ケイは、衝動殺人を起こす可能性のある少女「レイヴン」を追いながら、ゲーム・プログラムに侵入したウイルスを破壊しようとする。しかし、そのウイルスを入手しようとCIAが暗躍する。行方不明のケイの兄、その元婚約者、婚約者の弟など、ケイの過去に関わりのある人々も事件に関係しているため、ケイの心は乱れる。
 電脳ウイルスを扱いながら、作者はウイルスをもてあそぶ人間の醜さを描き出す。ウイルスはただの小道具ではなく、人間性というものの本質を表すために重要な役割を果たしている。
 ケイの過去が少しずつ明らかになることにより、入り組んだ人間関係が実に精密に組み立てられたものであることもはっきりしてきた。生きる目的を見つけられずドラッグとゲームに埋没する少女レイヴンはいささか類型的ではあるが、存在感があり、このシリーズのテーマを読者に読みとらせる鍵となっている。

(1999年10月2日読了)


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