「電脳ストーカー」に、続くシリーズ第4巻。
ヴァチカンから背教者の暗殺を依頼されたケイ。コンピューター・ウイルスの専門家である彼女にそんな仕事がまわってきたのは、傭兵をしていた過去に関係がある。そのため、本書はこれまでのエピソードよりアクション性の高いものとなっている。
しかし、ここでもケイはウイルスに関わることにはなっている。人間の脳内を破壊しアルツハイマー症と同じような状態にしてしまうウイルスである。
ケイのターゲットである背教者はシルヴェストリーニという神父で、傭兵時代にケイが出会ったことがあった。その時の彼は神を信じ自らを犠牲にして人々を救ったのだ。その彼に何があったのか。ケイは独自の調査を行うが、神父の配下が彼女の接触した人々を次々と殺していく。
一方神父の意を受けて脳内にある「信仰」のミームを破壊するウイルスを研究する女性がおり、妙空がCIAとともに彼女と接触している。ウイルスをめぐり、ヴァチカンとCIAの暗闘が始まり、ケイと妙空は否応もなくその戦いに巻きこまれていく。
「神」や「悪魔」の存在を脳内の遺伝子の作用ととらえ、それを破壊するウイルスを設定し、このアイデアを軸に人間にとって信仰、宗教とは何かと問う。また、肥大化した組織がそれを維持するためにどれだけ人一人の命を軽視するものかという権力のエゴを強く打ち出してもいる。これらはつまり「人間性」の根幹に関わる問題提起であり、かなり重いテーマだといえる。これをアクション小説として描いていくのだから、なかなか大変なことだと思う。それだけに悪役がステロタイプになりがちなのが気にはなる。ケイの過去に対する掘り下げがなされている分、相手側にもそれ相応の深みがほしいところだ。
(1999年10月7日読了)