読書感想文


巴里・妖都変
薬師寺涼子の怪奇事件簿

田中芳樹著
光文社 カッパノベルス
2000年1月30日第1刷
定価781円

 「東京ナイトメア」に続くシリーズ第3弾。前巻は文庫から新書ノベルスに版型が変わって驚いてたら、今度は版元を変えて出してきた。なんか1冊ずつ形を変えて出さないと気がすまないみたいだ。次こそはハードカバーか?
 「ドラよけお涼」こと薬師寺涼子と泉田警部補のコンビが、パリに出張。日本の大企業のフランス支店相手に大暴れ。空港に着いたとたんに脳を吸い取る奇怪な獣に出くわし、その謎をあばくうちにネオ・ナチを信奉する錬金術を極めた老女と戦うことになる。例によって、何かする旅に派手にぶっ壊しをする。このシリーズは理屈抜きでそのばかばかしさを楽しむ性質のものであるが、出張先のパリにライバルの室町由紀子が偶然いたりするのは、お約束といえども都合がよすぎはしないか。また、時事風刺ネタもやはりふんだんに盛り込まれているが、それを痛快と見るかもう飽きたと見るかによって、評価も分かれるのではないかと思う。私は、ちょっと飽きてきた。
 本巻で説得力を欠くと思われるのは、老女の操る錬金術の描写がほとんどないところ。展開としては、そんなところをぐだぐだ書き込んでいてはテンポが落ちることは百も承知ではあるが、このままだと老女が操るのは錬金術でなくったって黒魔術であっても何の不都合もないのである。もう少し錬金術を使っている場面をていねいに書くとご都合主義的な印象も薄れると思うのだが。
 熱烈なファンにとってはお涼と泉田のロマンスをほのめかすところなんか、たまらなかったりするんだろうけれど。まあ、少なくとも読んでいる間は楽しませてくれることは確か。そういう読み捨てタイプの話を書くことで作者は息抜きしているというような気がするのだが、穿ち過ぎか。

(2000年1月27日読了)


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