「ブギーポップ・カウントダウン エンブリオ浸蝕」の続刊でシリーズ第8弾(9冊目)。
前巻ではエンブリオが引き出す超能力が焦点であったが、今回はそれを狙うフォルテッシモや彼と決着をつけようとする亨、そしてエンブリオそのものなど全ての登場人物ががそれぞれの形で彼らのアイデンティティを探しながら戦う様子が中心となっている。フォルテッシモはブギーポップに対しその存在意義を問いかけたりするのだが、ブギーポップは有効な返答はしない。ブギーポップにアイデンティティは不必要、ということなのだろうか。
とにかく1冊通じて登場人物たちが説教ばかりしているという、私にとってはなんとも辛い展開であった。事件の流れに沿って自己を問いかける、という形をとろうとしてはいるのだが、それを台詞で処理してしまっているのでなんか青臭く浅薄に感じられて仕方がない。哲学的な深まりがないように思う。そんなに大層なと思われるかもしれないが、実存主義の入門書を1冊読んだだけで解決のヒントになるようなことで苦しんでいるのだ。登場人物が哲学について無知だという設定なのか、作者にその素養がなく充電している暇もないのか。どっちにしても、若い読者はその悩み苦しむ姿に共感したりしているのだろうとは思う。
前巻が「カウントダウン」で本巻は完結編かと思ったのだが、そうではないようだ。一度シリーズにケリをつけてみた方がよいのではと思うのだけどね。第1巻で「ブギーポップ」を、第2巻で「統和機構」をあいまいな形で登場させ、そのままここまできてしまっていることでシリーズ全体の構造に無理がでてきているように思う。
作者は充電期間をおくか新しいものを書いて気分転換をしないと、遠からずつぶれてしまいやしないかと心配しているのだ。せっかくいいものをもった新人を発掘しておきながら、消費し尽くすような起用の仕方が気になるのだ。
(2000年2月9日読了)