「陰陽寮
弐 怨霊篇」に続くシリーズ第3作。
1巻目と2巻目が同時期のことを並行して描いていたのに対し、本巻はその2冊の直接の続きになっている。いくつかのストーリーの流れがあり、それがからまりあっていく重層的な構成をとっている。
来流須の秘薬で氏から蘇った悪党が主君の妻を犯しながら殺し、その味を覚えて殺人狂と化す。怪人徐福が彼を利用し復活を図る。
異民族、刀伊の侵略をくい止めようとする源頼信はあわや全滅というところまで追い込まれるが、都の浮浪児たちの活躍で危地を脱し、藤原道長の命で派遣されてきた藤原保昌に助けられる。
浮浪児、鬼道丸は安倍晴明の弟子、寿宝らと来流須の民を探しついに兵呂須と藻波の二人に出会う。彼らの口からイエス・キリストの処刑にまつわる来流須の民の秘密が語られる。
これらの流れが時系列にそってばらばらに書かれ、その中の一部重なっている要素が鍵となり一つの物語として収斂していくのだ。だから、多数の人物が入り乱れる展開ではあっても、比較的すっきりとした構成になっているといえる。前巻で行方不明となった安倍晴明の存在が、不在であるが故に物語に大きな影響を与えていく。だから、本巻には登場しない晴明が実は物語を一本の線につなげる役割をしているといえる。
刀伊の入寇やイエスの処刑など思いもよらぬ題材を巧みに採り入れているので、隠された歴史の真相を明かしていくオーソドックスな伝奇小説のようにも読めるが、やはり本質は、歴史を題材に作者自身の内的な世界を作り上げていく作品であるように思われる。ある意味では歴史小説に見せかけた異世界ファンタジーといっていいかもしれない。
(2000年3月4日読了)