読書感想文


天魔業 神咒鏖殺行 巻之参
嬉野秋彦著
角川スニーカー文庫
2000年3月1日第1刷
定価600円

 「外法師」に続くシリーズ第3巻。完結編である。
 前巻で登場した西国の女性、ザウアーは、ドライセン帝国の錬金物理学士、リヒテルの造りだした新造人間であった。リヒテルは神咒萬嶽のからくり仕掛けである左腕を欲していた。実は、萬嶽の腕には西国の錬金物理学の最高機密が使われていて、リヒテルはその技術を我がものにしようと企んでいたのだ。リヒテルが萬嶽の腕に賭けた懸賞金につられて緋走姉妹も動き出す。萬嶽と緋走咲弥は己のプライドを賭けて決着をつけようとする。
 あとがきで作者が書いているように、咲弥がこの物語の真の主人公ということになるのだろう。最終巻にして、萬嶽は無頼漢という設定から外れてしまい、ピカレスク・ロマンという異色のファンタジーになるところが、けなげな女性の戦いをテーマにしたものにすり替わってしまった。少し残念。
 和風異世界ファンタジーではあるが、江戸時代を思わせる色町の描写や中国の戦国時代を思わせる国際関係など、ごった煮の世界設定になってしまった。必ずしも史実に忠実でなくても不正確であってもよいから、実際の世界を舞台にした方が効果的だったかもしれない。戦国時代ならこの物語でも無理はなかったのではないだろうか。
 それはそれとして、本シリーズは著者が久々に骨太の作品を書いたということで多いに意味がある。軽いタッチの作品を量産できる力量はあるが、なにか才能の無駄遣いみたいな気がしていただけに、できれば今後もこの路線を軸足に置いて新しい世界を描き出していってほしいものだ。

(2000年3月14日読了)


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