「追儺幻抄」に続く最新刊はほぼ1年ぶりの刊行。
天狗の標的は「本家」を束ねる神島家に。次期当主の神島達彦は、天狗により妖気をその体内に入れられ、衰弱していく。それでも達彦は三吾や聖たちの助力を断り、独力で敵と対峙する。達彦を襲った「天狼」は、家族や社会に絶望した少年少女たちが天狗に変異した存在であった。その恨みや絶望の念を達彦は受けきれるのだろうか……。
本巻では、初めて達彦が自ら敵と戦うという展開となった。彼の生い立ちが明らかになることで、その人間像が浮き彫りにされ、自らを意志の力で冷徹な人間に成長させざるを得なかった男の孤独などがよく描かれている。
また、「天狼」たちが天狗に変異しなければならなかった環境も、その孤独感を描いている。
逆に、三吾や聖、弓生らがそれらとは対照的にお互いを信頼して行動している様子もきっちりと書き込まれている。
つまり、本巻では「孤独」と「信頼」を対比することがテーマの一つとして浮かび上がってくるのだ。作者の軸足は「信頼」にあるのだが、それを単純な善悪の二項対立にしてしまわないところが、作品に奥行きを与えている。「孤独」には「孤独」の理由があるのだ。これは作者の見識だろう。
神島達彦が事件の中心となってきたこと、羅日候(らごう)の憎む対象が次第に明らかにされてきているところなどから、最終決戦へのお膳立てが着々とできつつある。
(2000年4月15日読了)