読書感想文


傀儡迷走(くぐつめいそう)
鷹野祐希著
講談社X文庫ホワイトハート
2000年4月5日第1刷
定価550円

 「傀儡喪失」に続く、シリーズ第3巻。
 主人公、菜樹は、五鬼衆の筆頭となった頴のためにその魂を深層意識に閉じこめてしまい、こんこんと眠り続ける。自分の力不足のためにそのような事態を招いたと思い悩む傀儡回しの海生。負傷して動けない彼に代わって、傀儡回しの仲間である藤枝一衣が寺を守り、菜樹の意識回復のために協力する。
 自らの野望を果たそうと精力的に動き始める頴。彼を慕う五鬼衆の少年、曠は、かつて菜樹に優しくされたことから、猿田彦の宿る神器を海生たちの元に届ける。
 心の殻に閉じこめられた菜樹は、果たして意識を取り戻すことができるのか。曠の届けた神器はどのような役割を果たすのか。
 菜樹が意識を取り戻していく様子を、彼女が長く険しい道中をくじけずに旅していくという描写で表現している。この描写はゲーム的であるように感じた。そうした手法を効果的に使用しているので、ともすれば説教臭くなりがちなシチュエーションをそうなるところから救っているように感じられた。
 敵である五鬼衆の人間関係も単純な上意下達にはせずに、孤独で無垢な少年、曠という不安定な存在を加えることにより、今後の展開に幅を持たせているところなどが面白い。
 菜樹が苦闘の中から帰還していくという今回のエピソードは、今後の展開の鍵を握る部分となるだろう。伝奇的要素もうまく隠し味のようにしのばせてあり、次巻以降の展開が楽しみだ。

(2000年4月17日読了)


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