「凍てゆるむ月の鏡
三」に続くシリーズ第9巻。
京都の女子校をめぐるエピソードが本巻で一応一区切りついた。
放生貴子が意識不明となった日を境に、学園に悪しき気が充満し、泉からも「気」が奪われていく。泉は常世姫としての記憶を掘り下げていくことにより、自らの気を取り戻していき、学園の生徒たちが「天使さま」と呼んでいた少女が実は既に死んでいたことをつきとめ、その少女、高槻夏美の霊と接触する。榊の手によって夏美の霊が昇天することにより、学園を覆う悪しき気については一応の解決を見るが、貴子の持つ力の秘密などはまだ解決されていない。泉は自分の知らないところで榊が独自の行動をとっていることを知り、動揺する。
本巻では学園に集う少女たちの極めて人間らしい悪意や感情がきめ細かに描かれており、またそれを視覚化した描写に見るべきものがある。泉が常世姫としての自覚を持ち、そういった少女たちの感情から超越した存在として描かれていることで、その描写のきめ細かさがいっそう際立っている。
もっとも、ストーリー展開の上ではるかに重要な部分は依然未解決のままである。それだけに、常世姫と世界の関わりなどの全体像が今後どのように明かされていくのか、興味は尽きない。
(2000年5月11日読了)