前作「水仙の清姫」の前日談にあたる中華ファンタジー。といっても、本巻は人間世界が舞台である。
村一番の商人の門前に捨てられていた暁春は、その家に養女として拾われた。その美貌と、出自の割に恵まれた境遇に、村中の娘たちの反感が彼女に集まっている。しかし、彼女は強気な性格で、それを受け流している。五十も年上の富豪に嫁ぐことになった暁春は、森の中で翡翠と名乗る仙人の使いを助ける。翡翠を助けた礼に願いを一つだけかなえさせる約束をした彼女は、もっと別な夫を翡翠に探させる。あと数日で輿入れとなったある日、椿の花を求めて山中に分け入った彼女は、隆慶という妻に先立たれ世を捨てた男に出会い……。
惹句には「ファンタジー」とあるが、仙術等は物語のメインではなく、彩りを添えている程度で、人に本心を見せない気の強い少女と世捨て人の交流が中心。設定や展開には特に目新しさはないが、物語の運びがうまく、一気に読ませるだけの力のある小説に仕上がっている。
何冊かこのような感じで書き続けていくうちに作者は大きなファンタジー世界を構築していく、ということになるのだろう。どれだけ大きな構想に広がっていくのか、今後その力量や成長が問われることになっていくのだろうと感じた。
(2000年5月14日読了)