「諒闇無明」に続くシリーズ第9巻。
前巻に引き続き、幼い内親王が何者かの祟りで死に瀕しているが、これを救ったのはそれほど徳が高いと思われていない僧侶であった。実は、その僧侶の侍僧がその親王にかけられていた呪詛を引き受けていたのだ。その侍僧は姉の内親王に恋いこがれ、呪詛の力を得て想いをとげようとする。一方、姫宮を恋慕する藤原頼通は、侍僧の助力をすることと引き替えに自分の恋をも成就させようとする。姫宮は頼通の待つ結界に閉じこめられ、そのすきに怪物と化した侍僧は内裏へ。義明は姫宮と、そして内親王を救おうとするが……。
姫宮が両性具有であるという設定をうまく使い、様々な愛の形を描き分けた一編。強い力を持ちながらも「癒し」の能力に欠けている姫宮と、悪しきものを浄化する力を持つ義明の対比がよく描けている。自分の力の限界を感じつつも義明に頼ることでそれを認めたくない姫宮が、次巻以降どう変化していくのかが今後の楽しみとなってきた。
また、歪んだ愛情表現を、呪詛の利用という形で具体的に描き出した作者の描写力も見どころの一つといえるだろう。
(2000年5月19日読了)