読書感想文


∀ガンダム 5.月光蝶
佐藤茂著
矢立肇・富野由悠季原作
角川スニーカー文庫
2000年5月1日第1刷
定価381円

 「∀ガンダム 4.火と月」の続刊。シリーズ完結編である。
 月で叛乱にあったディアナ。ディアナとしてふるまうことに限界を感じ、自らを主張し始めるキエル。戦いを収めるために強大な兵器である∀ガンダムを使用しなければならない矛盾に苦しむロラン。ディアナを利用して覇権奪回を狙うグエン。それぞれの食い違う思いがぶつかりあいながら、とうとう地球に戻った彼らは最後の決戦を迎える。
 「機動戦士ガンダム」の総決算ともいえる本書を読んでいてなんとなく感じたのは、ストーリー全体の手触りに手塚治虫の「火の鳥」を思わせる何かがあるということ。これは原作者が虫プロ出身であることと無関係ではなかろう。数多くの矛盾をかかえた「人間」を時には包み込むように、そして突き放すように運ばれるストーリーの骨格にどことなく共通点を感じてしまうのである。そういう意味では先年の長き年月を生きてきたディアナは火の鳥を富野的に表現したものとも読めるし、グエンは火の鳥の血を求める登場人物の一人に擬せられる。
 アニメーションではおそらく細かく描写されていたに違いない箇所をうまくカットしながら、これだけの分量にまとめあげた著者の力量も評価すべきだろう。単なるダイジェスト版ではない独立した作品して読めるからである。

(2000年5月19日読了)


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