超能力のある子どもを登録している社会が舞台。主人公の明日香はティッシュペーパーを動かすのがやっとの力しか持っていない。しかし、実は彼女の力は母の手によって封印されており、彼女が封印を解いたとき、その力を制御できるのは双子の弟、未来人だけである。超能力を権力者に握られるのを潔しとしない組織〈デュミナス・ケイル〉は、戦力として彼女たちを仲間に引き入れようとするが……。
児童書の老舗がヤングアダルト文庫を創刊した、その第1弾であるが、活字が大きくページ数も少ない。これまで出してきた児童書を、版型を変えて出したという感じのもので、その分量の少なさのため、主人公たちの設定を説明するだけで1冊が終わってしまっている。
作者は伊吹巡名義で「飢影鳥の飛ぶ町」などのユニークな作品を発表している。本巻を読んだだけだと伝統的なジュヴナイルSFの定型を踏んでいる感じであるが、これまでの作者の傾向からいうともうひとひねりあってもよさそうに思う。ページ数の関係もあり、本書1冊だけでは判断がつきにくい。「自分らしく生きる」というテーマはあるようだ。それだけに次巻以降を待ちたい。ただ、この文庫シリーズがどれだけ続くか少し疑問符をつけたくなるところなので、無事に続刊が出てくれればよいのだが。
(2000年7月2日読了)