読書感想文


ダブルブリッド III
中村恵里加著
メディアワークス電撃文庫
2000年7月25日第1刷
定価530円

 「ダブルブリッド II」の続刊。
 中国からひそかに入国してきた二人連れ。実は子どもの姿をした方は第二次大戦期にその素型が開発された人工頭脳と〈アヤカシ〉の肉体を合成して作られた人型兵器であった。日本の偵察を兼ねた実験のために来日したその兵器、趙蒼は、ある音楽を聞いたことがきっかけで暴走し始める。それは彼を開発した中国人技術者が仕掛けたものだった。彼の標的は陸上自衛隊の基地。〈アヤカシ〉と人間の混血である片倉優樹は、暴走する趙蒼をとらえるために満身創痍の体のまま、身を挺して趙蒼の行動を阻止しようとするが……。
 人工頭脳の設定に、開発者の感情を入れているところなど、作者の才気を感じさせる。技術は使い方次第で人間に対して善とも悪ともなりうるという展開はよくあるが、その技術が開発されるところの動機にまで踏み込まなければそれがどう使用されるかまでは描ききれない。そこをちゃんとおさえているので、物語に奥行きが生まれている。
 一作ごとに内容に深みが増してきた感じがある。この作者は書けば書くほど成長していくタイプの人らしい。登場人物の設定からすると、このシリーズはそう長期化しそうには思われないので、第1巻から張られている伏線をそろそろ生かし始めているところからも、完結は近いのではないだろうか。その時に、第1巻では単純な印象を与えた伏線が、かなり大きなテーマに変化して決着がつく、そんな気がする。また、そうあってほしい。

(2000年7月15日読了)


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