「凍てゆるむ月の鏡
四」に続くシリーズ第10巻。1年にわたって書き続けられてきたこのエピソードの完結編である。
放生貴子の父、放生巌は、能楽師、梨貴慎理をさらい榊と手を組んで”力”を手に入れ、政財界を牛耳ろうと目論む。榊の裏切りを知った山吹泉は動揺し、阿夫利たちを動かして慎理を助け出そうとする。その中で泉は自力で常世姫としての記憶を取り戻していく。貴子の兄、貴史はかつて自分が常世姫に従っていた”志々利”という鬼であったことを思い出し、養父である巌に対し策を練る。記憶を取り戻した泉は、本当の裏切り者が誰かを思い出す。泉がとるべき道は……。
一気に物語が進み、エピソードが完結してしまった。主人公の泉は榊の裏切りをきっかけに一気に記憶を取り戻していくのだが、作者もまた、「あとがき」にも自ら書いているように、きっかけをつかんでストーリーの全体像を一気につかんだという感じである。全巻までは手探りで進んでいたストーリーがこう一気に動くのを読んでいると、大河長編は生き物のようだと思う。
本巻の結果、主従関係のバランスが微妙に変化した。今後泉がどのように動いていくのか、記憶を取り戻してめでたしめでたしで終わる物語ではないだけに、これからが本当の物語の開始であるようにも思われる。重苦しい展開のエピソードであったが、これでシリーズ自体が一山越えたのではないだろうか。
記憶を取り戻したことによって現れる常世姫の本性と、平凡な少女でありたいと願う泉の人格の葛藤が今後のポイントとなるのだろう。
(2000年7月27日読了)