読書感想文


鵺姫真話
岩本隆雄著
朝日ソノラマ文庫
2000年8月31日第1刷
定価571円

 「星虫」の世界を舞台にとった全く別のストーリー。
 鵺姫様に25年の寿命と引き替えに願を掛けたらその願いはかなう……。神社のご神木の前にある石舞台で高校生の川崎純は願を掛けた少年に巻き込まれる形で過去の世界にとばされてしまう。彼女とともに戦国時代にとばされたまさるとひろしたちは、鵺姫伝説のもととなった史実の現場に立ち会うことになる。歴史を変える危険を冒してまでも「鵺姫」みつを助けようとする純たち。姫を助けたものの、純は戦国時代に一人取り残されてしまう。純はもとの世界に戻ることができるのか。そして、鵺姫伝説の真相は……。
 「星虫」の続編のように始まりながら、サイエンスファンタジーであった前作と違い、一転して伝奇小説となった……かと思ったら、実は見事な時間SFになっている。細かな伏線を縦横に張り巡らせ、ラストで一気に決着をつける。かなり手のこんだ話であり、展開が若干散漫になりかけるのだが、読了時にはその印象をきれいにかき消してくれる。
 主人公がコンプレックスから解放され自信を取り戻す過程も説教臭はなく、ごく自然に描かれている。それは、他者から認められる事の大切さを肯定的に描いているからだろう。
 作者10年ぶりの新作は、持ち味のポジティヴな作風を生かした秀作である。今後のさらなる活躍が期待される。

(2000年9月2日読了)


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