読書感想文


妖光の艦隊3 災厄の行方
林譲治著
KKベストセラーズ ワニ・ノベルス
2000年10月15日第1刷
定価848円

 「妖光の艦隊2」の続刊。
 無線が使えない状態を招いた天変地異は、地球規模の気候不順も生み出していた。欧州や合衆国は凶作に見舞われ、アジアやカナダからの援助物資を運んだ船は、正規の軍隊の海賊行為から身を守るため、大規模な護衛艦隊を必要としていた。同盟国である英国への援助物資を守るため、日本海軍の艦隊もかり出されている。物資を強奪しようとするドイツ軍や米国軍との間に、宣戦布告なき戦いが起こる。ここで、偵察用に派遣されていた空母から発射された爆撃機は、それまでの常識をくつがえして航空機による軍艦撃破を成功させる。しかし、無線が使用できないため、この画期的戦法はまだ多くの人々には知られていない。食料事情に端を発したこの戦争の行方は……。
 無線が使えないという戦法上の要素に加え、本書では食料をめぐる経済的な要因を加え、物語をより現実的な方向に導いている。外交上のトラブルの多くは経済的なトラブルが原因となるわけであるが、特に食糧問題は経済の根幹でもある。人が生きていくためには食糧が必要である。そのためには規律ある軍もまた海賊に転じなければならない。それがまた新たな戦争を呼ぶ。そのあたりの機微をきっちりと描いているところに、作者の生み出す戦記シミュレーションの魅力があるのだ。
 物語はいよいよ佳境に。世界情勢はますます混沌とし、先が読めない。続刊が待たれる。

(2000年10月29日読了)


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