農村地帯と新興住宅地が入り交じった希志堀井の町。カエリ淵と呼ばれる危険な沼に、弟の灘が落ちてしまった。命を取り留めた灘の様子がおかしくなったことに気がついた兄の嶺は、年老いた書店主、高荘から彼の息子がカエリ淵に住む化け物にとり憑かれその手で焼き殺した事実を知らされる。高荘は、灘もまたその化け物にとり憑かれているのだという。しかし、嶺には灘の変異を認める気持ちとともに、灘が自分の弟であるという確信も持っていた。地元の神社の宮司の息子で、嶺の通う高校で非常勤講師をしている大神亮平は、高荘の息子の友人だった過去を持つ。亮平は彼なりのやり方でこの事件に関わっていく。そして、嶺たちの両親が灘にとり憑いたものによって殺された時、嶺が出した結論は……。
デビュー作「イミューン 僕たちの敵」と同様、今回も「寄生」をテーマとしてとり上げ、やはり寄生するものの正体を求めるものにはなっていない。それよりも、寄生されたものにどう向き合うかということをテーマとしている。そういう意味では、前作の延長線上にある作品だといえるが、本書はストーリーをそのテーマがはっきりと表されるように描いているので、かなりこなれた印象を受けた。
作者にとっての「寄生」とは、人格、あるいはアイデンティティというものに対する疑問を解くためのキーワードではないかと思われる。外から見た姿形や表情からははかりしれない人間の本質を、「寄生」というモチーフを用いて描こうとしているように思われた。
前作よりもSF仕立てにする必然性も感じられたし、今後の作品にも期待できそうだ。本書はシリーズ化をねらっているようだが、次作ではもう「寄生」は使えまい。どのような手法でこのテーマを追求していくのか、そこにも注目してみたい。
(2000年12月19日読了)