読書感想文


ぼくらは虚空に夜を視る
上遠野浩平著
徳間デュアル文庫
2000年8月31日第1刷
定価590円

 高校生工藤兵吾は、景瀬観叉子という女子から呼び出されるが、そのできごとがきっかけで、宇宙空間に放り出されて〈虚空牙〉という敵と戦う世界にたびたび転移するようになる。彼の幼馴染み、槙村聡美に紹介された漫画家、妙ヶ谷幾乃から、教えられた事実は、彼の想像を絶するものだった。この世界はすべてが仮想の世界であり、〈虚空牙〉と戦う者の精神を安定させるためにこの世界で平和な日常を送らされているというのだ。連続殺人犯、青嶋麿之介の体に潜んでこの世界に現れた〈虚空牙〉と兵吾は戦うことになる。戦いの鍵を握るのは観叉子の存在。彼女はやはり〈虚空牙〉と戦うものの一人だった。仮想世界に入り込んだ〈虚空牙〉の目的は……。宇宙空間と仮想現実とがリンクする戦いの行方は……。
 我々の生きる世界の実在性を疑い、思春期の青年の抱える不安を世界設定で巧みに表現している。そのテーマをストレートに示しているのも作者らしいところだ。終盤、そのテーマを直接書き綴るところが気にはなった。やはりテーマはストーリーをして語らしめるべきだろう。その若書きのところも含めてファンがついていることは確かではあるが。
 「冥王と獣のダンス」で登場した〈虚空牙〉との戦いがストーリーの中心となるところなど、本書が「冥王  」の前史を語ったものであることを連想させる。作者もまた壮大な未来史を構築しようとしてるのだろうか。今後、その世界がどういう広がりを見せていくのかも注目したいところである。

(2000年12月31日読了)


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