「リングテイル 勝ち戦の君」の続刊。
魔道師見習いの少女マーニは、将来はミヌス王の魔道師となることを約束された身分だが、現在はチェント師のもとで絵の修業に励んでいる。ところが、夏至祭の夜、全身が象牙色の毛におおわれたいにしえの〈怪異〉ヘク・ウルシュの魔法により謎の谷にさまよいこんでしまう。彼女はそこで人間に追われる狐を助けるが、その狐は盗賊チャズの変身した姿であり、彼女は盗賊団に捕らわれてしまう。盗賊たちとの会話から、彼女は自分が過去の世界に送られてしまっていることを知る。盗賊団を襲撃した伝説の魔道師の王スウァルタと面会したマーニは、王の事蹟を語った歌を教える。それはこの世界ではまだ起きていない事柄であった。スウァルタの友ホリンは、チャズを殺そうとするが、マーニは幻影を描き出してチャズを救おうとする。心ならずもスウォルタ王の意に反することをしてしまったマーニの運命は。そして彼女はもとの時代に戻れることができるのであろうか。
マーニが過去の世界にタイムスリップしたことにより、マーニの行動がもといた世界に反映され、その時代のマーニに影響を与えるということで、「円環の物語」 「リングテイル」というタイトルがやっと生きてきた。作者はこのために第1巻を書いたのではないかと思うほどである。
ただ、タイムスリップの扱いは、ファンタジーだからこそ新鮮味を感じるけれど、SFの手法としては使い尽くされたものであるという印象は免れ得ない。そういう意味では、今後のマーニの行動次第でこのシリーズが壮大な叙事詩となるのか、SFの手法をファンタジーに取り入れた実験作になるのか、まだ読めない部分がある。
まとまりのよさでは前巻を取りたいが、ありきたりの「剣と魔法」の物語に終わらせないでおこうという作者の試みを感じるという点で、本書を注目しておきたい。〈凶運のチャズ〉に関するエピソードが成功すれば、期待は広がっていくだろう。
(2001年1月9日読了)