読書感想文


ワイルド・レイン3 覚醒
岡本賢一著
ハルキ文庫
2000年11月18日第1刷
定価667円

 「ワイルド・レイン2 増殖」の続刊で、シリーズ完結篇。
 レインが目覚めた時、そこは1991年のアメリカで、彼のサイ能力は働かず、これまでの記憶は彼が作り出した妄想だというのだ。しかし、彼を診察した精神科医ナカハラは、レインの話した事柄をたどることによりサイ能力を発揮するようになり、死刑囚となったレインを脱走させる。ナカハラの考えでは、レインの目覚めた世界はレイン自身が作り出したもので、真に覚醒することにより元の世界に戻れるというのだ。そして、それを裏付けるようにリーが元の世界からこの世界に実体化してくる。ナカハラの予知によりレインたちがおもむいた家で、豚のような頭を持つ〈神〉が今まさに息絶えようとしていた。そして、さらに豚頭の幻影がレインたちの前に現れ、レインの覚醒をさまたげようとする。豚頭によって語られた真実とは……。そしてレインは最終のロコンゴに打ち勝ち元の世界を救うことができるのか。
 意表をつく書き出しから、一気に物語は進展し、テクタニオ空間やロコンゴ運動の秘密が明かされていく展開は圧巻。全ての存在というものに対する一つの解釈が本シリーズで語られるのである。それはまさしくSFでなければ語り得ないスケールのものである。
 作者のロマンティシズムとハードボイルド的な展開が融合し、少しほろ苦く、そして奥の深い物語が完成した。実存主義を根底においたこの物語は、今後も作者の代表作となるものだろうし、文庫による復刊からこのように完結したことにも意義があると思う。一読をお薦めしたい。

(2001年1月14日読了)


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