読書感想文


天竺漫遊記5 三蔵経典を賜る
ガンダーラ
流星香著
講談社X文庫ホワイトハート
2000年12月5日第1刷
定価650円

 「ホーリー&ブライト」の続巻。シリーズ完結篇。
 三蔵一行は牛魔王と死力を尽くして戦いなんとか勝利を得るが、その結果、妖怪を滅することの意義について考えさせられることになる。長い旅のあと天竺に着いた三蔵たちだったが、そこにいた果級妖怪を退治したことを罪に問われ、捕縛されてしまう。誰もが幸福そうに暮らす天竺に隠された秘密とは。三蔵は目的通りに経典を賜ることができるのか。
 妖怪の存在を、〈果術〉という秘法を設定することにより意味付けるなど、あちこちに工夫がなされていて楽しく読めたシリーズであった。本巻では妖怪を倒すことに対する疑問を提示しておいて、天竺でそれに対する解答を用意するなど、展開の点でも説得力を持たせようとしている。
 ただ、その解答がけっこう唐突に示されているので、前巻までの雰囲気とはかなり違うものになってしまっていて、展開を急いだという印象が残ってしまったのが残念である。そのため妙に説教臭い雰囲気になってしまった。経典を取りに行く話だから説教臭くていい、というわけにはいかないだろう。
 さらに、完結したとはいえ、ここまで読者を引っ張ってきた最大のポイントである三蔵と悟空の関係については決着が着かないままに終わってしまったのも、残念。
 「ですます」文体も最後まで珍妙なものになっていた。しつこいくらい書くけれど、全5巻を通じて一番ひっかかったのはそこなのである。
 「西遊記」という素材を実にうまく料理しているだけに、そうした未完成な部分が目立ってしまうのだ。とはいえ、これまでの「西遊記」ものとは違いかなり大胆な解釈を提示しているので、「西遊記」ファンの私にとってはかなり興味深く、楽しく読めたシリーズである。

(2001年1月24日読了)


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