読書感想文


ダブルブリッド V
中村恵里加著
メディアワークス電撃文庫
2001年2月25日第1刷
定価570円

 「ダブルブリッド IV」の続刊。
 京都で〈アヤカシ〉の青年野中が何者かに殺された。優樹に犯人捜索の指令がおりる。彼女は〈アヤカシ〉の夏純とともに京都へ。そこでは地元の〈アヤカシ〉たちの敵意が待っていた。手がかりとなるのは野中の恋人で人間である佐々木という女性の証言だけ。手がかりをつかめず手をこまねいている二人をあざ笑うかのように第二の被害者が出る。以前戦った吸血鬼フレッドも加わり、犯人を追う優樹。意外な犯人の正体にとまどった優樹の右目が光った時、彼女に大きな変化が起こる。その変化とは……。一方、優樹と別れた山崎は、心を落ち着けるために帰郷する。山崎は優樹への想いを断ち切ることができるのか……。
 本巻からは新展開。特に、優樹をつかって野望を達しようとする強大な〈アヤカシ〉の動きを背景に、事件は奥の深いものになっていく。ここまでくると、シリーズを途中から読み出したのではわかりにくい部分もでてくるが、その分シリーズならではの世界構築をすることができる。長短あるけれど、長期シリーズとして作者が本腰を入れていることがわかる。
 本巻では山崎の日常が描かれているが、実は平凡な日常ほどドラマを隠しているものだという作者の主張が込められているようだ。平凡な日常のドラマ性をこれだけきっちり描けるあたり、作者がかなりの実力を蓄えていることがわかる。反面、〈アヤカシ〉と優樹の関係を描いた部分は、饒舌であり、過剰なドラマ性がかえって物語を類型的なものにしているきらいがないでもない。これからの作者の課題は、表現や描写に抑制をつけることなのではないだろうか。書かない部分を増やすことで、より効果が上がるというテクニックを身につければ、このシリーズはさらに面白くなるはずである。

(2001年2月12日読了)


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