「ブギーポップ・ウィキッド エンブリオ炎生」の続刊でシリーズ第9弾(10冊目)。
人の心に〈鍵〉をかけてしまう能力を持っているということで「統和機構」の一員となっている少女、九連内朱巳。彼女のクラスに復学してきた少女は、霧間凪。生命反応が停止しながらも生物的には生きている少年たちが続出する事件を追って、二人は全く別方向から差の犯人を探り出そうとする。朱巳は〈統和機構〉の敵を追い、凪は自分の〈正義〉を追い。やがて朱巳は恋をする。平凡ながら全ての事柄に〈保険〉を掛けて生きている内村杜斗に、彼女は心の安らぎを求めたのだ。しかし、杜斗の見せかけの平凡さの裏側にはどす黒いものがうずまいていた……。
これまでのストーリーよりも過去の時期を舞台にしたもので、このように時系列を崩しながらシリーズ展開していくという手法は、第1作で多方面の視点から同じ物語を語っていく手法に相通じるものがある。
本書では「正義」というものに対する問いかけがなされている。霧間凪が求める「正義」、〈統和機構〉の敵である新たな「悪」を設定することによる〈統和機構〉の正義。そして、ブギーポップが体現する「正義」。ここでは「正義」は相対化され、その定義をあいまいなものにする。まだ語り過ぎているところはないではないが、ストーリーや設定の中でそれを示しているところなど作者の成長を感じさせる。
思うに、1年間というブランクをおいてシリーズの続編を発表したこと、その間にシリーズとは違う作品を何作か発表したことなどがことこのシリーズについてはプラスに働いているのではないか。未消化であった〈統和機構〉の輪郭を明らかにしようとしているところなどからも、一度突き放してこのシリーズを見つめ直したように感じさせるのだ。
そういう意味で、今後、作者がどのように変化していくか、そのターニング・ポイントとなる1冊なのかもしれない。ストーリーやアイデアについてはこれまでのシリーズよりも平板な感じはするが、それ以上に意味のある作品ではないかと感じた。
(2001年2月12日読了)