「鬼」に収録された短編より弓削是雄を主人公にしたシリーズの一編。
羅城門に人よりもはるかに身長の高い鬼が出現。陰陽寮の頭、弓削是雄は関白の命により陰陽師たちを使い鬼を祓わなければならない。忙しくしている是雄のもとに、今度は讃岐守菅原道真の報告で淡路島に鬼が出現したということがわかる。都を闊歩する長人鬼との関連を探るため、是雄は元山賊の女頭目、芙蓉らと淡路島へ。彼らはそこで奇怪な幻影を見せられる。一方、都で留守を預かる陰陽師、紀温史は内裏に侵入してきた長人鬼が女官を殺す場面を目撃し……。長人鬼の正体は。そして是雄らはこの事件の裏に隠された謎を解くことができるのか。
本書もシリーズの他の作品と同様に、人の心に棲む〈鬼〉の姿を怪異を通じて明らかにする試みといえる。本書の場合は善をなそうとするあまり逆に人の心を惑わす行いをしてしまうという、いわば人間の持つ愚かさやあさはかさに焦点を絞ったものであるように感じられた。
ベテランらしく手堅くまとめてはいるけれど、読み手の度胆を抜くというところまでいっていないのが残念。ミステリ的には正しいのだろうが、伝奇小説として読んだ場合、やや物足りなく感じた。〈鬼〉そのものに対して畏敬の念を持てとはいわないけれど、もう少し鬼の業の深さなどを感じさせてほしかった。
(2001年3月10日読了)