読書感想文


忌みしものの挽歌
封殺鬼 22
霜島ケイ著
小学館キャンバス文庫
2001年5月1日第1刷
定価514円

 「昏き神々の宴」に続くシリーズ第22巻。
 蛇神にとり憑かれてしまい、「中央」から追われる身となった聖、意識を無くした聖を助ける弓生。彼らは高良によって、何人も足を踏み入れることを許されぬ土地にかくまわれる。一方、「本家」では二人の鬼の処遇について神島と御景が対立、中立の秋川を含め「本家」分裂の危機が迫る。「中央」と協力して弓生たちを殺すことに決した御景の次期当主である野坂三吾は彼らを助けたい自分の思いと「本家」当主としての立場の矛盾に苛まれることなる。一方、柿色の着物を着た謎の鬼が石上神宮に伝わる神器を求めて出没、弓生たちはその存在の秘密を知る。そして、悩みを抱えたままの三吾は訣別の決意を告げるために弓生を呼び出すが……。
 本巻では孤立してしまった弓生たちの苦悩(という割には聖はいつものペースであるが)や自分の立場と感情の行き違いに苦しむ三吾の姿、そして高良の秘密などがていねいに書き込まれている。そして、物語の進行の上でも非常に重要なターニング・ポイントを迎えていることがわかる。アクションとしてはそれほど派手な見せ場はないものの、登場人物たちが乗り越えなければならない高い壁を作者が提示しているという感じである。
 スケールの大きなストーリー展開を土台にこういった細やかな部分をきっちりと書き込んでいるからこそ、このシリーズ全体が奥深さを感じさせるのだろう。
 使役鬼という立場から一転して独自に動かなければならなくなった鬼たちの今後の動きと、柿色の衣の鬼の物語で果たす役割など、次巻以降の動きもまた楽しみである。

(2001年3月31日読了)


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