「カナリア・ファイル 黒塚(前)」に続く、シリーズ第12冊目。
『鬼狩の里』に囚われの身となった有王は、行方不明となった耀を助け出そうとする。見つかった耀は瀕死の状態になっていた。橘高はいまだ屋敷の奥に隠されていて見つけることはできない。村に滞在する隠司と名乗る謎の僧は、村の人間関係の対立を利用し、村に隠された宝剣を手に入れようと画策する。少しずつ崩壊する村の秩序。有王はその中で里の人々に隠された哀しい運命を知ることになる。そして、ついに隠司はその正体を現し、有王と激しい戦いを繰り広げる。有王に勝機はあるのか。耀が口を開き、言葉を発した結果は……。
人が自分ではどうにもできない運命を背負わされている、その苦しみを激しい戦いの中から少しずつ浮かび上がらせ、浮き彫りにしていく筆致に作者の真骨頂を見る。その運命を乗り越えることができないと諦め流されていく心の弱さなど、作者の提示するテーマには重みがある。〈綾瀬〉とは似通ったところのある集団を、全く違った性質のものとして対照的に描いているあたり、シリーズものの強みを生かしたものだといえる。
次のエピソードに向けて未解決のまま残した部分もあり、続刊がますます楽しみになってきた。
(2001年4月1日読了)