読書感想文


傀儡解放
鷹野祐希著
講談社X文庫ホワイトハート
2001年1月5日第1刷
定価670円

 「傀儡自鳴」に続く、シリーズ第5巻。
 五鬼衆の筆頭の頴は、菜樹に火山の神を降ろすことにより自分の野望を達成しようとする。そのため五鬼衆の一人である曠を使者とし、菜樹の父、貴巳たちと菜樹を交換するよう要求する。菜樹はそれを受け入れ、〈宇津保〉の村へ。一方傀儡回しの彩里は傀儡を手荒に扱ったために傀儡回しの座を取り上げられる。そこで初めてからくりたちの声に耳を傾けるようになった彩里は、次第に心を開いていく。火山の神を降ろされ利用される菜樹。彼女を救いに行こうとする海生。頴が自分の野望の実現に酔いしれている隙に、曠は〈宇津保〉の村の結界を解こうとしていた。頴の野望は達成されるのか。菜樹のうちに宿るアメノウズメノカミが呼び寄せたものは……。
 本書で明らかにされたテーマは、たとえ人形であってもその意志に反して操ろうとすればうまく動かないということ、つまり、自分の生を生きるという意志をもつ者にどのように接していくべきかということではないかと思う。また、たとえ自分が操られているような身であっても、自分を信じて自分の意志で生きよということでもあるだろう。作者はそれを説教じみたセリフで説明するのではなく、登場人物の行動やストーリー展開の中で読み手に提示していった。これは実はなかなか難しいことなのだが、最後までそれをやり遂げた作者の力量を高く評価したい。もっとも、伏線を張りながら最後までそれを活用できなかった部分もあり、それは今後の課題として残りはしたのだが。
 デビュー作からのシリーズをこのような形でなんとかまとめあげた作者は、いわば第1の関門をくぐり抜けたということだろう。したがって、次作もまたこのレベルを維持することができれば、その力は本物と見ていい。次回作ではどのような世界を構築していくのか、楽しみである。

(2001年4月5日読了)


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