読書感想文


櫻の系譜 夢弦の響
金蓮花著
集英社コバルト文庫
2001年1月10日第1刷
定価495円

 「凍てゆるむ月の鏡  五」と対をなすシリーズが開始された。
 陰陽師の血をひきこの世のものでない存在を見ることのできる当麻杜那は、満員電車の中で苦しんでいる美少年、栗花落砌(つゆり・みぎり)を助ける。彼が同じ高校の同級生であり、また霊などの憑人としての能力をもっていることを後日知って驚く杜那。彼が砌を救った時に吐き出した汚物は実は邪神で、学校の桜の古木にとり憑いてしまった。杜那の力をのばすために現れた田所冬星の助言もあり、杜那と砌は古木に憑いた邪神を祓うことになる。彼らはどのようにして邪神を祓うのか。また、なかなかお互いを信頼し切れない二人の関係はどのように変化していくのか。
 まずは、登場人物の紹介という側面の強い巻である。また「月の系譜」に登場する道具などが登場したり、共通の登場人物の存在が会話の中に登場したりというぐあいに、シリーズとして前シリーズとの関連を持たせるようにもしている。
 本巻だけを読めば、前シリーズを覆っていた深刻で救いようのない雰囲気がかなり緩和されていることに気がつく。また、独立した物語として、比較的単純な展開にしているようにも感じられる。ここらあたりで読者にとっつきやすくしておいて、作品世界に慣れたところで一気に前シリーズとの関連性を強めていくのではないかと推測している。
 ともかく、本シリーズも長丁場になりそうだ。まずは登場人物の個性などをじっくり書き込むところから始まっているのはそのためだろう。これからどのように物語に奥行きがててくるかが、主人公たちの成長過程とともに楽しみになってきた。

(2001年4月8日読了)


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