読書感想文


櫻の系譜 風花の序
金蓮花著
集英社コバルト文庫
2001年4月10日第1刷
定価476円

 「夢弦の響」に続くシリーズ第2巻。
 杜那の父、杜生が新幹線の事故で意識不明となった。その新幹線には総理大臣も乗車していてこちらも意識不明。軽症でありながら意識の戻らない父を霊視した杜那は雪の舞い散るイメージを感じとる。冬星は彼を能の宗匠、各務宗春のもとに連れて行き、霊障の起こるという稽古場でその霊障を祓うように依頼する。宗春の舞いに雪のイメージをとらえた杜那は印を切り、扇の要を打ち抜いた。彼らに目をつけたのは、政財界の黒幕の養子、若王子真澄。杜那は父の意識を取り戻させるため、死のうとしている総理大臣の霊魂をつなぎ止めるものを断ち切ろうとするが……。
 「月の系譜」に登場していた重要な人物が次々と登場し、杜那と砌が前シリーズのエピソードに次第に関連づけられていくようになってきている。また、杜那たちが自分たちの役割を自覚し、徐々に変化していく様子も見られる。
 しかし、どうしても前シリーズと比較してしまうのだが、物語全体に漂うトーンに陰影がなく、かなり単純な印象を受けてしまった。それは、少年たちが主人公であるということも無関係ではなかろう。したがって、今後「月の系譜」の登場人物との関係が深まっていくことにより、物語の陰影が増すことを期待したいところだ。
 なんとなく感じたのだが、作者はボーイズ・ラヴを意識し過ぎているのではないだろうか。売れ行きの問題とも関係があるのかもしれないが、本来の作者のスタイルにないものを取り入れてもともと持っていたよさをなくしてしまいはしないかと心配してしまった。

(2001年4月8日読了)


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