「ウィーン薔薇の騎士物語 3 虚王の歌劇」の続刊。
フランツはベルンシュタイン公爵の招きで新しいヴァイオリンを受け取りにエーデルベルクまで出かけることになった。同伴するのはなんとオーストリア皇太子。フランツはベルンシュタイン公が幻の名器「シレーヌ」を渡す相手を探しているという噂を耳にする。フランツのライバルにあたるのは、記憶を喪失しているがヴァイオリンの腕は天才的というシュテファンという少年。おりしも、エーデルベルクでは司祭が殺害されるという事件が起こっていた。さらに、フランツが心ひかれる少女、ヘレネも殺人未遂にあう。そして、第3の事件がフランツの身近で起ころうとしていた……。シュテファンの失われた記憶の秘密とは。そして、名器「シレーヌ」の持つ魔力とは……。
前巻に続き、ミステリ仕立ての1篇。ヴァイオリンの持つ魔力という魅力的な道具立てを有効に使っている。また、少年から大人へと変わっていくフランツの不安定な心理も物語をミステリアスにする効果を担っている。そういう意味では、シリーズの中でも特に青春小説的な色合いが濃い作品だと感じられた。
ずっとこのままミステリの要素の濃い作品を続けていくのだろうか。個人的にはできればもう少しファンタスティックなものを期待したいのだけれど。本書ももっとヴァイオリンとヴァイオリニストの魔性を強く出していってほしかったと思うのは私の我がままなのだろうか。
ところ、作中に出てくるトビアスの手紙は、みごとにインタネットのメール風である。こういう遊びは嫌いではないけれど、作品の雰囲気を考えたらちょっと悪乗りが過ぎるようにも感じられた。まあこれは読み手によって判断の分かれるところだろうけれど。
(2001年4月12日読了)