読書感想文


カナリア・ファイル 罔象女(みずはめ)
毛利志生子著
集英社 スーパーファンタジー文庫
2001年2月28日第1刷
定価514円

 「カナリア・ファイル 黒塚(後)」に続く、シリーズ第13冊目。シリーズ完結篇。
 病院から死体が消え去った事件を調査することになった有王。彼は調査先の伊勢で、以前菊名翁に奪われた「鬼切の太刀」を発見する。一方、旅行で伊勢にやって来ていた耀たちは、死人の体に召喚された水神、罔象女と出会う。罔象女はその体から出て水に戻りたがっているのだが、耀たちにはその願いをかなえてやることができない。消えた死体と罔象女の関係は。太刀を奪われた菊名翁の行方は。そして罔象女の願いはかなうのか……。
 これまでのエピソードで未解決であった問題が一通り解決し、丸くおさまる大団円。完結篇としては一応形がついている。ただし、古族の現代における役割、その来歴など、大きなレベルでの謎は結局解明されないまま終わってしまったという感じもする。
 そういう意味では、このシリーズは9巻目の綾瀬一族との戦いが終わったところで終了させておいた方が余韻が残ってよかったのではないかと思う。10巻以降が蛇足とはいわないけれど、せっかく一旦終わったシリーズを再開させたからには、やはり再開前のスケール以上のものを期待してしまうのだ。
 あるいは、作者が考えていた以上にシリーズのスケールが大きくなってしまったのに対し、うまくまとめたいという気持ちが働いたのかもしれない。そうであれば、本書はまさにうまく落ち着くべきところに着地させているわけで、それだけでも作者の力量は示されているといえるかもしない。
 全巻完結を機に、ぜひ通読してもらいたいシリーズである。

(2001年5月2日読了)


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