「夢世界異邦人 眠り姫の卵」に続くシリーズ第2巻。
いじめられる少年、拓也。彼にかかわった人間が次々と事故にあう。そして、そこにつきまとうのは巨大な魚の姿……。サイコダイバーの凛と紅美は夢界と現実との間にほころびが生じているのを感じとる。拓也の同級生、瑞穂の依頼を受け巨大な魚について調査を始めた凛は、拓也に自分と同質のものを感じとる。それは、拓也のサイコダイバーとしての素質であり、自分がサイコダイビングを始めた頃の記憶を掘り起こすものだった。隠された拓也の能力とは……。そして凛がつきとめた巨大な魚の正体は……。
前作とは違い、傷付いた少年のいびつに拡大された害意を深海魚という異界にふさわしい姿をしたものに象徴させるという形で少年の心理を描いている。何者をも信じられない少年がそれでも傷付かないように生きていこうと自分を殺して生活している様と、そんな少年を見つめる少女の淡い恋心が、〈夢界〉という設定をうまく生かして描写されている。
救いのある結末は、清潔感があふれて好感が持てる。しかし、思春期の青年心理というものはもっと痛いものか、あるいは無軌道なものなのではないかというようにも思う。そういう意味では本シリーズはいささか楽天的で、それが長所にも短所にもなっているのではないだろうか。私としてはもっともっと「痛い」話にしてもいいと思うのだが。
(2001年5月2日読了)