「血まみれの犬」に続くシリーズ第8弾。外伝的な内容の1冊。
本書ではふだんは善ノ介の引き立て役である佐原閑を主役にした中短編が3編収められている。不幸な死に方をした女性の幽霊を介して出会った閑と恋人七星の出会いを描いた「雨の降る日は好き、雨上がりの街もわりと好き。」。善ノ介とムジカが七星の高校の学園祭を訪れる「たまにはこういう日もアリでしょ?」。かがりの友人美弥から持ち込まれたストーカー退治が、実は亡くなった古神道の使い手の遺した呪術であり、閑がこれに立ち向かうはめになる「彼女のところへ還る日」。いずれも長篇シリーズの挿話として軽く読める小品。
作者の力量を持ってすれば、この程度の短編は質を落とさず書ける。それを証明した1冊といえる。私としては、正直いってこういった形でその才能と時間を浪費してほしくないのである。作者にはこのシリーズに限らず本格的な大作をものする力量があるし、私はデビュー以来どれだけ大きくなるか期待して見つめてきた。それだけにこういった形のシリーズ全体の流れにもあまり関係のないようなものが出てくると少し落胆してしまうのである。
小器用にまとまるのではなく、もっと大きくブレイクしてほしい。だからこそ、シリーズの本筋に戻る次回作では、スケールの大きなエピソードにしてくれることを期待したい。
(2001年5月4日読了)