「天使の囁き」に続くシリーズ第2巻で、完結編となる。
〈亜種〉であるシアオは自分たちが〈主都〉に住む人間たちのクローンであり、人間たちの医療などに利用される使い捨てのような存在であることを知り、衝撃を受ける。再び〈主都〉に潜入したシアオは、〈主都〉のスラムに住む下層階級の人間ゲキと会い、人間たちの階級社会の現状に認識を新たにする。〈亜種〉の目指す革命は人間たちとの共存であることを確信したシアオは、〈主都〉の支配階級であるルーのもとを密かに訪ねる。ルーに惹かれるものを感じていたシアオにとって、ルーが〈亜種〉を差別していないかどうか、期待をこめて確認しにいったのだ。ルーと再開したシアオが直面した思いもよらぬ事実とは。シアオたちの革命は成功するのか。
階級社会の矛盾点を、クローンたちと人間の対立という設定を用い、若者たちの微妙に揺れる心理をきめ細かに描く。前巻よりも設定がこなれてきて登場人物たちがいきいきと動き始めている。謎が一つずつ解き明かされていくことにより、少年たちは変化、成長していくのだがその変化も不自然にはならず、物語の盛り上がり方も強引な印象は受けない。このままこのシリーズが続けば、きっとかなりスケールの大きなSFになるだろうと期待させるだけのものになりつつあったのだ。
しかし、作者のあとがきによると「もうちょっと長くするはずだった」とある。売れ行きなどの都合もあるのだろうが、確かに前巻はかなり地味な印象を与えたかもしれないけれど、こういったスケールの大きな物語はあまり短いスパンでとらえてほしくない。特にラスト付近では明らかに今後展開する予定であったストーリーを駆け足で荒筋だけ紹介するような形になっていて、そのあたりの事情が読み手もわかるような書き方になっている。その部分を読むと、この先かなり面白い人間模様が描かれることが予想されるだけに、本巻でのシリーズ終了はとても残念である。
次は再び現代退魔ものの新シリーズを開始する予定だとあとがきにある。できたら、そのシリーズと並行して駆け足で終わった部分を続編として出してはくれないものか。作者のSFに対するセンスのよさを垣間見ることができただけに、いつかまたSFに挑戦してほしいと思うのである。
(2001年5月11日読了)